ライジング•サン②


彼との出会いは小学三年、そう確か五月。


ちょうど今日みたいに日射しが力強い午後だった。

祝日だというのに家族に相手にされていなかったももこは暇を持て余し、そして立派なカメラを下げた生意気に笑う彼に出会った。

話を聞けば彼はももこの二つ年上だったり、実は同じ小学校に通っているということ。

年上だと威張ることもなくただカメラのシャッターを切る、そして誇らしげに自身の宝物を教えてくれた彼がももこには眩しくて、その背中は小学生ながらに逞しく映った。

それが、彼女における『武田洋』の全て。


「まるこ。」

間延びした声に背中が力む三限目の休み時間、移動中。

一から三学年までの教室がある校舎と地学室、生物室のある箱の様な年季物の校舎を渡す廊下の一角で、相変わらず気だるそうな集団が座り混んで談笑している。

廊下の三分の二を占拠している事を除けば、この年頃にもなればいわゆる問題児も一般の生徒には特に何の害もなく(これが少し前の思春期ならば話は別)、ももこも特に興味を示さず女子クラスメイト達とそこをやり過ごした。

そして無事通過しかけた矢先、その声に呼び止められ薄々気付いてはいたが思わず振り返ってしまったのだ。


「なんで無視すんの。」

上履きを擦る音と共に洋が笑っている。

白のカッターシャツは、今日も第三ボタンまでしっかり開かれている。

こちらも相変わらずの様相、制服の着こなしはすっかり洋カスタマイズ。

「洋くんいるの気付かなかった。」

騒がしい胸とは裏腹に努めて冷静にももこは言う。

射し込む日射しが彼の髪に反射し眩しくて堪らなかった。

「洋くん、ほんとすごい色、その頭。」

「似合ってる?」

小首を傾げながら、薄くて涼しい目元に裏腹な笑みを浮かべている。

そしてそのやり取りにイケメンー!、なんて野次を飛ばすのは彼のヤンチャな友人達。

ももこのクラスメイト達はそんな二人を廊下の向こうで見ている。

「私、次移動だから。じゃあね。」

「んだよ、まるこ。お前高校入ってから冷たいぞ。」

「冷たくないし。洋くん、久しぶりに会ったら別人みたいでちょっと遠巻きになってるだけ。」

「何それ。」

照れてんの?と彼が本気で目を丸くしたもんだから、ももこは心底うんざりした。

「じゃあ聞くけど、洋くんカメラ触ってる?そんな風に見えないんですけど。」

「カメラ?そんなもんとっくにやめた。高校上がったらそんな暇ねえよ、見たら分かんだろ。」

そう彼は笑う。

ももこは下唇に力を込めて静かに息を吐いた。

「ほら、洋くん変わった。」

「変わったとか言うなって。俺、マジで何も変わってないから。お前の知ってる俺だよ。」

俄(にわ)かに呆れた様に、だけど優しい目をして困った様に、やっぱり彼は笑う。

ももこはその声とぶつかった視線でそれ以上何も言えなかった。

そんな彼女をクラスメイト達がチャイム鳴るよ、と急かした。

「まるこ。またな。」

肩先を擦れ違うももこの背中に、相変わらず間延びした声を投げ掛ける。

とにかく嫌だった。


あの緩やかな声も、何故か穏やかな眼差しも、陽に溶けそうな髪も何もかもが嫌だった。

ももこは振り返りもせずただ、またなんてない、とその場を後にした。


HUG HUG HUG

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