ライジング•サン④


焼け付く様な太陽、立ち昇るそれがライジング・サンと言う事。

それを教えてくれた洋に対する悶々とした不満が解消されたももこは今、妙に晴れやかだった。

そんな彼女の単純さを親兄弟はお手軽と言ったし、友人はポジティブと称賛した。

そして、そのももこ自身はそのいずれも当て嵌まってはいないと感じていたが、事実それが長所でありそんな自分に救われた経験もあったので全力で否定はしなかった。


幼なじみであり、一番身近に物を生み出す喜びをありありと見せてくれた洋。

それは異性に対する思慕ではなくとも、やはりももこには特別だった。


異性といえば、同じくして幼なじみの大野けんいち。

元は同じ地元の生まれだが親の転勤で東京へ越して、この春再び戻って来た。

あの頃、非常にやんちゃで小学校ではボス猿の様に振る舞っていた彼だが、正義感が強く仲間であればどこまでも援護したし逆に敵であればこてんぱに打ちのめし、当時から男気みたいなものを遺憾無く発揮していた。

さらには成績優秀(彼が授業中に居眠りする姿を見たことがない)、勿論スポーツも難無くこなす秀才であった為に同級生はおろか教師や保護者からの信頼は絶大なものを誇っていた。

付け足すとすれば彼はその容姿さえも、他人の目を集めていること。

どちらかと言えばあまり言葉が綺麗な方ではないけんいち(実際ももこの事を馬鹿だのグズだのと罵った)を、不思議と上品に見せていたのは間違いなくあの容姿のおかげだとももこは思っている。

日がな一日サッカーばかりしていて真っ黒に焼けた姿は溌剌(はつらつ)としていたし、くっきりと型取られた瞳や鼻筋はまさに女子達の羨望の的だった。

ももこの知る限りで彼程に圧倒される少年は初めてだったし、思わずけんいちの一挙一動を視線が追いかけ、名を呼ばれ振り返るのも彼女には躊躇われた。

だから、体育館を出る最中に彼に呼び止められた時には言葉が出なかった。


「さくら。」

その声はざわめく体育館でやけにはっきりと輪郭を持ちももこに届いた。

初夏の今時分に陽に焼けた肌なのは彼がサッカー部だからだろうか。

高校に入学して同じクラスにも関わらず、けんいちを真正面から見たのはいつぶりだろう、ももこは改めてその逞しい上背のある少年を眺めた。

けんいちの背中越しには、当然の様に女子生徒達の視線が張り付いている。

「皆、見てる。」

不意を突いて零れたももこの言葉にけんいちが、え?と尋ね返す。

「大野くんモテモテだからさ、皆が見てる。」

視線が痛いぐらい、と冷やかすももこに一切の興味も無いといった体(てい)のけんいち。

どうでもいい、と微塵も氣に留めず彼は言うのだった。

彼程に人を引き寄せる素材を持ちながら、しかしそんな自身にこれっぽちも頓着が無いのだ。

少しばかり自覚してはどうかと、さすがのももこも思っていた。


「それよりさくら、お前夏休み補習とかなるなよ。」

「なんで。そんなの期末も終わってないのに、絶対ならない保障は出来ないよ。」

そもそもけんいちに成績を危惧される覚えも謂れも無い。

そして端から補習覚悟のももこの返答にけんいちは半ば呆れている。

「今からならない努力しろよ。」

そんなけんいちの忠告めいた口ぶりの意図が読めず、ももこは口をとがらせる。

「何で大野くんにそこまで言われなきゃなんないの。」

「体育祭のクラス実行委員、お前女子の委員だったぞ。夏休み学校出て準備するのに補習かぶったらお前、夏休み無いぞ。」

「それいつ決めたの?」

身に覚えのない自分の役職に首を傾げる。

「入学してすぐのロングで決めてたろ。」

お前何してた、とけんいち。

ももこは記憶を手繰る、確かに委員決めをした記憶はある。

その時はクラス委員という目先の厄介事(それは一年間続く)から逃れることで無我夢中だったのだ。

その後、無事にそれを免れてすっかり自分が何委員に割り振られたかの確認を怠ったのだ。

油断した。

一人一つ必ず割り当てられる委員の役割に、あの時ももこは何に希望していたかすら思い出せない。

クラス委員以外は殆ど単発の仕事ばかり、面倒臭くて辛いのはその一瞬。

とはいえ、もっと他にあっただろうに。


「俺、男子の委員だから。お前、補習で準備出られないとか無しな。」

ああ、大野けんいちが体育祭実行委員。

想像通りで返す言葉もなかった。

「大野くん、私が体育祭実行委員てまずくない?だってほら、私活発なイメージじゃないし。」

「よく言う。虫採りだなんだって薮ん中走り回ってたろ。」

「いつの話してんのさ。」

さあな、と控え目に笑うけんいちに心臓の裏側がちりりと痛んだ。


「とにかく期末、頑張れ。」

それだけ告げるとけんいちの背中は生徒の波に紛れて見えなくなった。


小学生の頃の記憶よりはるかに逞しくなっている、ももこはそれが見えなくなった場所をぼんやりと眺めた。

そして、幼なじみという枠を持たなければ多分、一生関わり合いになれない人物だと思うと胸の奥が萎(しぼ)んだ。


HUG HUG HUG

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