神様の嘘。

嘘を吐いた。
あの子を忘れたと嘘を吐いた。
こんなにも鮮やかな恋に、嘘を吐いた。


初恋が訪れたのは、13歳の頃。
あれは丁度春で新学年に進級したての私達はどことなく浮き足立っていた。
制服がまだ馴染みきっていない肩に男子を意識し始めり、未完成な曲線に恥ずかしさを覚えたりしていた。

「笹山。」
杉山さとしくんにそう呼ばれる度、心拍数が増す感覚に気付いたとき私は何だか素っ気なく何?と返すのがやっとだった。
ほんの1年前までは他愛もない会話を交わしていたのに、彼に尋ねられた言葉にレスポンスするだけの毎日。
「笹山は好きな奴とかいねえの?」
そう、彼が何気なく尋ねたから私は精一杯で返した。

「いない。」
唐突な彼からのクエスチョンに私もオウム返し。
「そういうそっちこそ。好きな子いないの?」
杉山くんが間髪いれずいないと笑ったから、私は酷く安堵したのに。
嘘つきな彼が、付き合い始めたと友人から聞かされた。
彼女のこともよく見知っている私には天地がひっくり返る位の驚きだった。

嘘つき、嘘つきな杉山くん。
優しく並んだ2つの背中が、私の目の前を歩いていた。
ぎこちないけれど、そこにはもう立派な男女が潜んでいた。
あの2つの背中を見てしまった帰り道、私は友人の会話なんて何1つ覚えていない。
その日の通学路が、堪らなく悠久に続く道のりに思えた。
大人になればこんな風に、張り裂けそうなくらい苦しくならないのだろうか。
好きな人が好きだと、私に言ってくれるのだろうか。
恋をして、傷つかなくなるのだろうか。
私は私の恋に、嘘をつかなくなるのだろうか。

そんな途方もないいつかを何遍も巡らせながら、ぼんやりと陽の傾いた自室から外を眺めていると何だか無性に泣きたくなった。

感傷、そんな格好良い言葉は知らない。
ああ、神様。
嘘つきは、私。
あの瞬間、嘘をついた私が本当の嘘つきだ。
だからほら、こんなに息苦しい。

校舎裏の桜の樹は、いつの間に葉桜に変わったのだろう。

生まれて初めて誰かを想って頬を濡らしたこと、光速で過ぎた麗らかな春の日を今ではもう思い出すことも出来ない。

HUG HUG HUG

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