雨の午後に、虹が架かる。

たとえば、今ならきっともっとわかりあえるんじゃないか・って。
そんなことを考えている時点で不毛なのだ。


その不機嫌そうな女に遭遇したのは千駄ヶ谷、北参道の駅を上がったところだった。

先程降った通り雨で、湿度を含んだ地下から吹き上げる風に髪を乱され、それだけでもう不機嫌さはマックスだった。
尚且つ、鉢合わせた状況が最悪。
俺の隣には、売り出し前のグラドル(ベイビーフェイスでFカップ・だ)。
そんな彼女を連れてるだけで、どこまでもしょうもないだから男なんて、そんな冷え冷えとした視線を頂戴するのは目に見えてる。
しかし幸い向こうはこちらに気が付いてないらしい、触らぬ何とやらに祟りなし、極力目が合わないよう隣の彼女を肩越しにかくまいながらその場をやり過ごそうと試みた。
まあそれは無理な話だった、俺が甘かった。
試みた矢先、視線がぶつかる。
それはもう見事に、多分ばちっという効果音をつけてもいいくらいに。
視線を絡めた女は、それは面白いくらいに目を見開いている。
元々形のいいアーモンド型の瞳がこれでもかとこちらを見つめる、それは痛い程に。
ちくしょう、俺のライフはゼロだ。
開き直るしかない、と向こうが口を開くより僅かに早く「やあ城ヶ崎、」なんて白々く右手を挙げた。

「あら平岡。奇遇ね。」
思いのほか相手も白々しい、これでもかというよそ行き顔で微笑んでる。
「城ヶ崎、ひとり?」
「そうよ。友達と待ち合わせしてるの。平岡こそ、」
そう口を開きかけてから傍らに気が付き俺と彼女を一度、交互に見遣るだけだった。
あれ、もっと何かしらの冷たい洗礼(視線だったり溜め息だったり)を頂くものかと思っていたのに。
案外、スルーされるもんだな。
「じゃあ、私はこれで。」
そうやっぱりよそ行きの、ただし今度はとびきり柔らかに微笑むと、城ヶ崎は俺達を残して残りの階段を颯爽と駆け上がっていった。
その背中に思わず「また連絡する」なんて言った自分に少し驚いたけど、城ヶ崎は背中を向けたまま「いらない。」と跳ね返した。

本当にちっとも可愛くない女。
隣にいたグラドルは城ヶ崎の事を尋ねたそうにこちらを見ていたが敢えて気付かない振りをした。

「平岡さん、すごい美人でしたね。お友達?」
「地元のね。」
「そうなんですね。じゃあ高校とか?」
「小学校から一緒かな。」
「すごい!幼馴染みてやつですね!」
そう、腕を絡めながら彼女は言う。

俺の脳裏には、城ヶ崎を泊めた晩のことが過る。
酒に酔って管を巻いた彼女を、連れて帰る事に躊躇いは微塵も無かった。
むしろ、一人じゃ居られなかったんだ、あの日は。
多分、後にも先にも無いってくらいの失恋、何が悲しくて好きな人の式に参列したのか。
そして、それは城ヶ崎も同じだったから。
俺達の間に流れたあのくたびれた空気、実るはずもないものに焦がれて、焦がれて、焦がれ続けて擦りきれてしまいそうでも手に入らないもどかしさ。
そんなやり場のない思いを、ただぶつけ合った。
勿論、そこにはそれなりの事があって酒が入っていたにせよそれは虚しいだけの行為なのに、悲しいくらい熱くて泣けたのだ。
それを、唯一分かち合えたのがまさか城ヶ崎だったなんて、自分自身が一番驚いてる。
互いに交わした酒臭いキス(生憎城ヶ崎は記憶がないので最早一方的な)、涙声でうわ言みたいに呼ぶ彼(か)の人の名前。
胎内に秘めた熱は、その瞬間さえも胸の奥を食い破る勢いでじりじりとせり上がりそして果てた。
それは、焼き切れそうなくらい、泣けるくらい。
あの夜、俺は確かに城ヶ崎に生かされた。

「相性がいいんだ。」
その呟きの真意を彼女は知らない、知り得る術も必要もない。

恐らく思い上がりでもなんでもなくて、彼女と俺は、再びそんな夜が訪れる気がしている。
そして、彼女もそれを受け入れるのだ、苦虫を噛み潰した様に悔しがりながら。

そんな夜を待ちわびながら、俺は違う誰かの肩を抱いて城ヶ崎とすれ違った駅を後にした。

HUG HUG HUG

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