拗ねたりする横顔なんかを眺めたり。
「しょうもねえ。」
教室の後ろから、そう声がした。
振り返らなくても分かる。
どうやらすこぶる機嫌が悪いらしい。
ああ、と大袈裟に肩を落としながら声のする方を向くと、
「いい加減やめとけよ。ただでさえさくら朝弱いのに、そんなの引き受けてどうするつもりなんだよ。」
なんて追い討ち。
「関係ないじゃん。仕方ないでしょ、私だって面倒くさいけど友達の頼みなんだから。第一大野くんだって始めはがんばれよ、とか言ってたじゃん!」
朝早く登校して夕方遅くに下校する文化祭実行委員になったのが三日前。
その時はそっか頑張れよ、とか笑ってたくせに。
今日になって実行委員から戻るとこの有様。
「普段でさえ中々一緒に下校したり出来ないってのに。さくらがそんなんしてたら益々無理だろ。」
「何さ、大野くんだって体育祭実行委員とかなって一緒に帰れなかったじゃん!私だってあんとき我慢したよ!」
しかもそんな目立つことしといて、クラス対抗リレーでアンカー走るわ応援団長やるわで女の子にもみくちゃにされてたのはどこの誰だ。
「だから。あんときに寂しかったんなら何でまた寂しくなるような事するんだ。」
「頼まれたから仕方ないじゃん!何がそんなに気に食わないのさ、文化祭までのほんの二週間だけだよ。」
「二週間も。二週間も平岡と居残りして仕事なんて、ぜってー嫌。」
「何でよ!嫌だなんてひらばに失礼じゃん!」
「嫌に決まってる。だって平岡のやつあわよくばなんて思ってるぜ、絶対。」
「何があわよくばなのさ。」
大野くんは普段『こんなこと』を言わない。
いつだって落ち着きを払いながら、むしろ私のこと本当に好き?と尋ねたくなるくらい冷静なのだ。
そんな彼ともうどうしようもない押し問答を始めて二十分。
半ば睨み合い先に視線を反らしたのは大野くんだった。
「ああ、帰ろう。こんなこと言ったって何が変わるわけじゃない。」
帰るぞさくら、とエナメルバッグを左肩にかけると教室の扉を開けた。
大野くんはそのまま左に折れてその背中が見えなくなり、私は弾かれた様に駆けて同じ角を曲がり大野くんの背中を掴む。
驚いた様に困った様に振り向きながら、大野くんが笑う。
「なるべく、私にできる精一杯で大野くんに嫌な気持ちにならないように実行委員やるから。」
「何それ。」
「だから大野くんの部活が早く終わる時は待ってて。一緒に帰ろう。」
彼の聞き分けのよさは私にだけ通用しない。
他の誰かには笑って二つ返事の彼が駄々を捏ねて見せる。
それってなんて幸福。
「もちろん。」
ほら、と後ろ手に差し出された右手に私は全身で飛び着いて。
だから大野くんが好きなんだ、そう廊下に響くように告げると夕日と同じくらいに染まった顔が、バツが悪そうに馬鹿なやつ、と呟いたのを私は聞き逃さなかった。
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