ほら、みろ。
世の中、完璧なんてそうそうありゃしないんだ。
何だか照れくさい話をすると。
我が友人である大野けんいちは、非常に良く出来た男だ。
どれくらい出来るかというと、お勉強をさせると5科目平均490点を超えたりするし、運動させるとリレーのアンカー、部活ならその大会でMVP。
とにかく死角なんかないんだ、この男には。
その上、神様はとびきり依怙贔屓(えこひいき)で、大野ときたら同性ですら時折目が離せなくなるくらいの顔の作りをしているのだ。
そりゃあ全学年の女子はこいつに群がり、大野の下駄箱はいつも何かしらで満杯なのだ。
今時そんな光景、マンガですらみないだろ?
俺はそんな光景を毎朝、目の当たりにしている。
誰だこんな完璧な男生んだのは、親の顔が見てみたいところだが大野の母ちゃん、確かに美人である。
そんなこんなの大野は今、俺の目の前で何故かやきもきしている。
その隣にいるチビのおかっぱ野郎が驚く程鈍感なのと、何を間違ったかあのパーフェクトボーイの大野がまさかあのちんちくりんにお熱なもんだからそれは上手くいかないさ。
自分の気持ちを悟られないようにそれとなくアピールなんて、存外器用貧乏で硬派な大野に出来っこないのだ。
大野は酷く心許ない口調で、明日の給食の話題を振っている。
隣の彼女にはピッタリの話題だが、それ以上発展させる事も出来ず在ろうことか会話の主導権はいつの間にか大野から彼女に移り、ドリフの話題にすり替えられている。
あっけらかんと笑う彼女を余所(よそ)に、ぶっきらぼうに相槌を打つ大野は耳まで赤いわ首筋にうっすら汗は滲むわ(今は12月だ)、流石にこれはちょっと格好悪いぞ。
全校の女子達、これが大野けんいちの素の姿だと声を大にして言いたい。
「ちょっと杉山くんからも何か言ってやってよ!絶対加藤茶だよね!」
「何がだよ。」
不意討ちでドリフの会話を拾える程、俺は器用じゃない。
「ちょっとあんたの友達。仲本工事だって言い張って聞かないんだよ!」
長さんならまだしも、なんて続けるけどさっぱりわからん。
それにそれは仲本工事に対して、誠に失礼である。
「や、会話の出口が見えないから。」
恨めしそうに俺を睨むそのおかっぱも、何だか大野と同じ表情をしていた。
何だ、お似合いじゃん。
俺のその言葉は思わず声になっていて、途端に2人は目を丸くして体を強張らせた。
「何言ってんの、杉山くん。」
「さくら、大野のこと後よろしく。俺今日穂波のとこ寄って帰るから。」
「何それ。」
ちなみに、穂波は俺のガールフレンド。
おかっぱの友達だけどちんちくりんじゃない、とっても穏やかで清楚な素敵女子。
そんなあいつらを追い越して、俺はいつもの通学路を早足で右に折れた。
その時肩越しに見えた大野に目配せして、後はあの完璧な大野くんがどこまで頑張れるか。
早く穂波に会って話したかった。
何だか照れくさいけど、あの良く出来た友人の唯一の欠点のこと。
人間完璧ではないからこそ可愛いってもんだなあ、なんて一丁前に口笛なんて吹きながら俺は夕闇のアスファルトを急いだ。
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